時の移り変わりは早いもので、あっという間にアナログレコードから、CDになり、最近ではパソコンやiPodなどハードディスクに音楽信号を保存する時代になりました。ですからプリアンプが必要かどうかにまで、論点を突き詰めるのは、アナログマニアの甚だ強引な策略で、どのように自己正当化を試みても嘲笑に値すること必須です。今回私がプリアンプとして取り上げるのは、個人的な好みによるものです。ここで取り上げるプリアンプは真空管式で、アナログレコードの再生、ラジオチューナーの使用やテープデッキによる録音再生を前提としたものです。思い起こされる代表的なプリアンプは、マランツ#7、マッキントッシュC22、クォード22等の往年の名器や、ラックス、ウエスギ等です。
真空管アンプが半導体アンプと競合し合っていた60~70年代は、多くの自作マニアが往年の名器に挑戦し、成果を上げていた時代でもあります。古い製作記事を見ると、当時のマニアの並々ならぬ熱意や奮闘ぶりを知ることができます。また、彼らが往年の名器を凌駕する作品を製作し、真摯にオーディオを楽しんでいたことも伺い知ることができます。それらは、今取り上げてもその光を失っておらず、是非蘇らせ、音を聞いてみたいと思います。
部品について述べますと、最近はインターネットによる売買が盛んになり、かつては入手が困難だった部品でも入手できるようになりました。ウエスタンやテレフンケンの真空管、スプラグやコーネルダブラーのコンデンサー、UTC、トライアッド、タムラのトランス等、市場になかなか出回らなかったものが、入手できるのは嬉しいことで、機会があれば使ってみたいと思います。
往年の自作マニアは、素材を生かすも殺すも腕次第と孤軍奮闘していました。よって、良い部品を見分ける目も、自分自身で育んでいかなければなりませんでした。使用した部品に不具合があった場合には、原因の発見に手間がかかります。原因が分からないと、せっかく組み上げても、部品交換や調整を繰り返し、それでもうまくいかずに、最終的に解体に至ることしばしばありました。
真空管式プリアンプは、製作は多少難しいですが、音色は大変良いです。また、MT管、GT管、ST管、ナス管と様々な形態があり、見て楽しむ要素もあります。真空管アンプの楽しみ方の1つとして、プリアンプは大変魅力的です。その魅力の一端を紹介できれば幸いです。
プリアンプの例①
配線は、性能に大きく影響します。信号部と高電圧部を出来るだけ接近させないようにしています。また、本器ではシールド線はフォノ入力以外使用していません。このGT管のプリアンプは音質が大変良く、完成度が高いです。 |
【必要な性能は】
☆フォノイコライザー:無帰還CR型誤差±2dBゲイン50~100倍、残留ノイズ1mV以下
☆フォノイコライザー:無帰還CR型誤差±2dBゲイン50~100倍、残留ノイズ1mV以下
音楽ソースがアナログレコードの場合にはフォノイコライザーアンプが必要になります。数ミリボルトのフォノカートリッジの出力を増幅しRIAA特性を再生するために、必要なゲインは数十倍から数百倍、低ノイズであること、RIAA誤差が少ないことが条件です。イコライザーアンプと言えばNFB型のマランツ#7、マッキントッシュC-22が有名ですが、音質にこだわれば無帰還CRの方が良く、マニアの多くはCR型のイコライザーアンプを使用していました。好みの問題もあるとは思いますが、CR型イコライザーの音質は何とも魅力的に感じます。しかしCR型の欠点は、SN比が良くないこと、ゲインの高いアンプが作りにくいこと、RIAAの誤差が多いことです。製作経験のある方ならお分かりと思いますが、CR型イコライザーでSN比を良くすることは至難の業で、真空管式では不可能と言ってよいと思います。
☆フラットアンプ:再生帯域20~20kHz±2dB、ゲイン2~3倍、残留ノイズ0.2mV以下
音質の劣化を少なくしてプリアンプからの出力をメインアンプまで届けるには、各種切り替えスイッチやボリュームの後に、フラットアンプを付けインピーダンスを低くするのも良い手です。パッシブ型のアッテネーターを使えば、ノイズの心配もなく、また音質の劣化もないはずですが、真空管式の場合にはフラットアンプを通した方が、良い結果が得られることが多いようです。
☆トーンコントロール:不要論もありますが・・・・・。
音質的に優れているのはCR型ですが、真空管式の場合はインピーダンスが高いのでノイズを拾ってしまいます。また、トーンコントロール回路が音質劣化の原因になっていることもあり、トーンコントロール不要と考える方も多いと思います。増幅と減衰を組み合わせているので、音質は良くなるはずはないのですが、かえって聞きやすくなることもあるのは不思議なことです。個人的な見解ですが、小型のスピーカーシステムで小音量の場合にはトーンコントロールが必要なことがありますが、真空管アンプを使用するオーディオマニアであれば、相応に優秀なスピーカーシステムをお持ちの方と推察され、十分な低音、高音が出ているので、トーンコントロールは無くても良いと思います。
【部品の選択】
【部品の選択】
定評のある部品や新品の部品を使うことは、完成時の不安を少なくする意味で必要ですが、古い部品、多くは中古品ですが、魅力的なものが数多くあり、どうしても使ってみたい衝動に駆られます。古い部品の場合、抵抗であれば、テスターで値を計り、誤差が多ければ経年劣化が考えられます。カップリングのコンデンサーはオイルコンの場合、絶縁不良のものがあります。ソケットや端子類については、古いものは劣化して導通が不良になっている恐れがあるので、十分なチェックが必要です。真空管については、古い物でも新しい物でも、実装しみなければわからないことが多いです。私の場合、余分に購入して選別しており、また真空管販売店で色々な情報を得て購入時の参考にしています。
古い部品の場合、かつての秋葉原にあったジャンク店では、購入時に手に取って、五感を働かせて良いか悪いか見極めることができましたが、今日のインターネットでの購入は写真でしか分からないので不安です。以前、オークションで100本近くの真空管の山をジャンクとして購入した際、何とか使えるのが数本と言う経験をしました。ジャンクであれば、良品も含まれているはずと思ったのですが、選別してはじいたものをジャンク品として販売していたようです。購入する側もある程度のリスクは仕方がないことですが、現物を見ることができないというのはとても残念なことでした。
プリアンプの製作において、ノイズを少なくしてSN比を良くするために、部品の選択には大変気を使います。手に取って自分自身の目で確かめ、失敗を繰り返しながら、部品選択のノウハウを身に付けることが必要です。
【シャーシデザイン】
デザインはアンプ作りで最も気を使うところで、製作の醍醐味を味わえるところでもあります。気に入ったデザインが思い付いたときには、デッサンしておき、製作に取り入れます。また、優れたデザインの機器は、参考資料としてカタログや写真の収集も楽しいものです。デザインは自由度が大きく、好みに合わせて何でもできます。個人的な好みではありますが、古い通信機器、軍用無線機、古典ラジオ等の雰囲気のある佇まいは、何とも言えない癒しの効果があるように思います。また、斬新なデザインであっても、真空管という素材にマッチしていて、これまでにないような新しさを感じるのは面白いことです。
プリアンプの例②
薄型の斬新なデザイン |
プリアンプにおいてのフォノイコライザー回路は、かつてはレコードマニアの興味をひいておりました。代表的なイコライザー回路はマランツ型、マッキン型、クォード型等が有名で、様々な音質の検討がなされてきました。ですから、イコライザーアンプだけを独立して使用することも、面白いと思います。
プリアンプの例③イコライザーアンプテレフンケン社ECC81(12AT7)使用
テレフンケンECC81無帰還フォノイコライザーアンプ
☆使用及び特性:入力47kΩ、許容入力250mV、最大出力15V(歪5%)、ゲイン36dB(60倍)、残留ノイズ1mV以下、出力特性RIAA偏差±1.5dB以内、歪率0.5%以下(1V出力)。【サイズ】WDH150×200×80㎜、重さ2.4㎏。消費電力約10W。
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小型のシャーシに高密度で組んであります。厳重なフィルター回路と、入出力の配線の位置、部品の配置を工夫することでノイズを低減しています。 |